「わが社と同じ境遇で苦しんでいる会社があるはず。そんな窮屈な思いをしている私たちの声を世間や行政に届けたい。少しでも働きかけをしたいと考えて思いついたのが、この方法だった」。山中一代社長(山中運送店、大阪市西淀川区)が始めたのはドライバーの働き方改革についての請願(陳情)署名活動だ。

 

山中社長曰く、「宅配便ドライバーから長距離ドライバーまでまったく異なる職種を一括りにしている法に無理がある」。そこに集まった「声」の活動実績はまだ「3cm」。「小バエが飛んでいるほどとも思われていないだろうけれど…」

 

働き方改革と密接に関係する運賃交渉や長距離ドライバーの宿泊、ETC深夜割引などの問題に対してトラック協会、行政などが行っている取り組みに疑問を持ったのが1年半前。ト協、国交省、国会議員、地方議員らに問い合わせをしてきた。しかし、「お気持ちはわかりますが、私たちにはどうにもできません」「質問に関してはわかりません。知りません」という回答ばかり。極め付けが、「山中さんのところだけですよ、そんな運行は」とのト協職員からの回答。鋼材や配管加工の西淀川や東大阪にある町工場約150社の荷主からの輸送依頼は、それこそ北海道から沖縄までに至るが、山中社長は「うちだけの問題であるはずはない」ときっぱり。このような状況に納得できない気持ちが署名活動につながったという。

 

署名用紙に書かれた要望事項は、大きく分けて5つ。①長距離ドライバーが自分のペースで走りやすいように拘束時間などを緩和してほしい②高速道路での制限速度を80キロに戻す③長距離ドライバーの宿泊施設の確保④高速道路の深夜割引の廃止(どの時間帯でも割引を適用してほしい)⑤運賃交渉に関して、国から荷主への働きかけをしてほしいというもの。

 

山中社長は、「『荷主に値上げ交渉をしなさい』ではなく荷主に『払いなさい』と働きかけてほしい。ドライバーの宿泊施設も閉鎖や稼働率の低下が相次いでいる。『働き方改革』を掲げ、ドライバーが休めるようにと考えているなら宿泊施設を増設すべき」。国交省、ト協とはある意味ベクトルが逆、なのだ。

 

通常業務をこなしながら1日100件分の封筒を作成し、貨物運送事業者名簿の「あ」行から順に送付している。「2月ごろから始めて、まだ『か』行なので、まだまだ先は長い」と話す山中社長。全社で月一回ともにしてきたご馳走も、「印刷と郵送代に宛てて」と言っては、18人のドライバーらは作業に協力する。

 

社長に就任して2年になる山中社長だが、最初は会社を継ぐつもりではなかった。「元々、保育士をしていて、その隙間時間に会社の事務作業の手伝いをしていた。そこから改めてこの会社に勤めるようになって従業員のみんなはすごく優しくて尊敬できる人たち」。従業員、そして「運賃にも理解があるからこそ困っているお客さん」(山中社長)への思いは募る。

 

「働き方改革に反対しているわけじゃない。運送業は、内容が多岐に渡るのに1つにまとめるのは難しい。この法に当てはまらない運送会社があることを知ってほしい。そして、今後もこの署名活動を続け、今回の法に+αを考えられる流れを作っていきたい」と話した。

 

また、「中身は個人情報でお見せできないが」と言いながら返信いただけた厚さ3cmになる署名簿の束を見せてくれた(写真)。

 

「署名簿を送らせていただき、返信してもらえなかったり、断られることもあるが、『頑張ってください』『応援しています』というエールももらえる。この署名を無駄にしないように今後も活動を続けていきたい」と語った。

 

◎関連リンク→ 有限会社山中運送店