「ワクチン打ちますよね」「ワクチン未接種は出禁?」――。新型コロナウイルスのワクチン接種が急ピッチで進むなか、下請け事業者に接種を強制する元請け事業者が出てきており、拒否する従業員との板挟みに悩む経営者が増えることも予想されている。人口の多い大都市圏でも対象年齢が拡大されつつあるいま、「ワクチンハラスメント」と批判されないために運送事業者はどう対応すべきだろうか。

トラックドライバー情報サイト「ブルル」が6月7日から14日まで、ドライバー344人を対象にアンケートを実施したところ、「接種したくない」27.6%、「接種したくないがやむを得ず接種する」が19.2%で、「接種したい」36.6%を抑える結果が出た。残りの16.6%は「わからない」だった。

「元請けからの圧力で仕方なく打つ予定」と切り出すのは、軽貨物ドライバー。「元請けの上層部から接種するようにとの通達が出ているようで、担当部長から『ワクチン打ちますよね!?』と聞かれた。『打ちません』とも言えず、『順番がきたらもちろん接種します』と答えた。打たないことで取引がなくなるのは避けたいので断れなかった」という。

別のドライバーからは、「これから、『接種しないドライバーは出禁』などと言い出す荷主や客先が出てきそう。接種したら証明書をもらって持ち歩くしかない」と危惧する声も。

「新型コロナウイルスのワクチンは壮大な人体実験だと思っているのであまり気が進まない」と打ち明けるドライバーは、「それでも『どうせ、いつかは打つだろうな』という感じ」と将来的には接種する意向。「ただ、ワクチンの管理や接種ミスの報道が目立つので医療事故の方が心配」とも。

多くのドライバーから上がったのが「副反応が出ても休めないのではないか」という声。「トラックドライバーは、運転中はもちろん、積み込み・荷下ろしなど基本的に一人で作業しているため、万一、倒れたりしたら、いろんな方に迷惑がかかる」と懸念する。また、ドライバーの妻が、「夫が打ちたいと言っているが、何かあると怖いので反対している」と家族が心配を募らせているケースも。

一方で、「自分も荷主もリスクが低減されるなら打った方が良い」「早く接種を終わらせて安心したい」という声も多数寄せられた。

「ワクチンの有効期間を過ぎたら再度接種する必要があるのか?」など、まだまだ不明な点も多々あるが、なかには、「ワクチン接種は有料(自費)だと思っていた」というドライバーもおり、ワク・ハラの防止策とともに、周知活動の徹底も必要と言える。

長瀬弁護士に聞く 「配車しない」は事実上の強制となる

運送業界の労務問題に詳しい弁護士の長瀬佑志氏(長瀬総合法律事務所、茨城県牛久市)に聞いた。

Q.「ワクチンを接種しないドライバーに配車しない」というのは違法か?

A.接種するかどうかは個人の判断に委ねられるため、従業員に強制することはできない。厚労省も、「本人の同意なくワクチン接種を強制することはできない」と述べている。したがって、「配車しない」ということは、事実上、従業員に対してワクチン接種を強制することになり、違法と考えられる。

Q.配車しなかった場合のリスクは?

A.接種を拒否したドライバーを出社させないということは、従業員の落ち度がなく仕事をさせないということになる。「業務命令に基づく出勤停止」ということになり、その間の給与は支払わなければならない。また、業務させないということで、「パワーハラスメント」と認定された場合には、慰謝料を支払う義務を負うリスクも考えられる。

Q.荷主はドライバーのワクチン未接種を理由に出禁や取引停止にできるのか?

A.当事者間の契約書にその旨の条項をあらかじめ設定していない場合には原則として認められない。条項がないのであれば、理由のない契約違反である旨を指摘できる。もっとも、新たに取引関係に入ろうとする場面では、荷主からすればワクチン未接種のドライバーが勤務する運送事業者との契約を締結しないという判断は可能(契約しない理由を明示する必要はない)。運送事業者側からすれば、新規取引の機会が減少する恐れがある。

長瀬弁護士は、「マスク着用に関して類似の相談が寄せられたので、今後、ワクチン接種の機会が増えていけば、同様の相談が寄せられることは想定される」と指摘。「事業者側からすれば、従業員に接種してもらうことは、事業所内の安全配慮義務に関わる上、対外的な信用にもつながることなので、できる限り接種を推奨したいと考えられるはずだが、一方で、強制はできないということからすると、従業員にワクチン接種の重要性をどのように理解してもらうかが大切なポイント」と語る。