第九話.岡野、テキ屋になる

 それは、俺が『テキ屋のバイト』をしている時だった。
 実は家出を始めて少し経った頃、家出資金が尽きた俺は、テキ屋の詰所で厄介になっていたのだ。

 ――話は少し遡る。

 家出をして、スーパー銭湯で寝泊りをするようになった俺。
 が、しつこいようだが俺は金がない。

 家出資金が底をつくのはあっという間だった。
 どうするかなー、っと思っていた時だった。

 遊び歩いた後、スーパー銭湯へチャリで向かう途中に、タコヤキ屋の屋台が目に留まる。
 駅前にいつも屋台を出しているタコヤキ屋だ。

 タコヤキ屋……。
 屋台……。
 テキ屋……。

 まだ中学生の俺じゃ、金が欲しくても普通のバイトは無理だ。
 でも、テキ屋なら?

 思い立ったら即行動できるのは俺の長所だと思う。
 そのままタコヤキ屋のにーちゃんに突撃した。

「さーせん! 俺、雇って貰えませんか?」

「ぁ?」

 タコヤキ屋のにーちゃんは片眉を少し上げて俺をまじまじと眺めた。

「雇うってなぁ。お前いくつだよ?」

「今年十六っす! 高校行ってないけど行ってれば高校生っす!」

 シレっとさばを読んだ。
 俺は中二にしてはがたいも良いし背も高い。
 バレるか? だめか? ドキドキしながら平静を装う。

「十六ぅ?」

 めっちゃ疑われてる。

「駄目っすか? 俺マジで金無くて困ってるんっすよぉ」

「んーー、ま、いっか。紹介してやんよ」

 ――っしゃ!

 テキ屋のにーちゃんは、俺をテキ屋の元締めの所へ案内をしてくれた。
 最初は元締めも難色を示していたが、十六ですと押し切るとOKしてもらえた。

 ありがたいことに、テキ屋には詰所と呼ばれる協同生活をする場がある。 
 つまり、宿泊費タダ。

 俺はスーパー銭湯からテキ屋へと拠点を移し、テキ屋でのバイトを始めた。 
 最初は先輩についていって屋台を出す。
 屋台を組み立てたり、ガスの準備をしたり、教わりながら先輩を手伝う。
 はじめての経験で、楽しかった。

「テル、お疲れさん」

 一日働いてヘトヘトになったところで、封筒が渡された。
 中を見ると、五千円。

 ド貧乏の俺にとって、自由に使える五千円は、物凄い大金だ。
 すげぇ! 一日働いただけで五千円も貰えた!!

 今考えるとすごいブラックだが、俺は飛び上がって喜んだ。

 テキ屋のバイトは、楽しかった。
 こっそりと車の運転の仕方を教えて貰ったり、タコヤキを綺麗に焼くコツを教わったり、水風船を作ったり。
 テキ屋の皆は、一番幼い俺を可愛がってくれた。

 ちらっと姉ちゃんたちの事が、頭をよぎらなかったわけじゃないが、それでもテキ屋の生活が楽しくて、遊ぶ金と、寝泊りできる場所を得た俺は、家に戻らなくなり、一ヶ月経ち、二ヶ月経ち、気づけば、家出を始めてから、半年ほど経過してしまっていた。

 

 ――そして、冒頭に戻る。

 その日も俺は祭りで屋台を出していた。 
 お客さんから金を受け取り、金魚すくいのポイを渡す。
 ポイっていうのは、金魚を掬う丸いわっかに薄い紙が貼ったアレ。
 後ちょっとで今日も終わり、って頃だった。

「ねぇ、キミ、随分と若いね? いくつ?」

「――は?」

 ぱっと見で、判った。 
 やべぇ、補導員だ。

「十六っす」

「本当に?」

「ほんとっすよー」

 だらだらだら。嫌な汗が出てくる。

「そう? ちょっと話聞かせて貰えるかな?」

「え、ちょ、あの……」

 へたくそな言い訳をしてみるも、ガキンチョの言い訳が通用するわけもなく。 
 あえなく俺は、家出少年として補導員に保護されて、交番へとドナドナされた。

to be continued…


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次回は6/26更新予定です!お楽しみに!