第四話.岡野、(はや)()てられる

 小学生に、学校で何が一番楽しみかと問われたら、大半の生徒が『給食』と答えるだろう。

 育ち盛り、食べ盛りの俺の楽しみも、当然給食だった。

 

 それが人気の献立だったりすると、俄然(がぜん)テンションが上がる。

 そして、給食とは弱肉強食、戦いの場だ。

 すなわち、「お代わり争奪戦」である。

 

 女子は照れからか、あまりお代わりをする生徒はいない。

 もっぱら男子の戦場だった。

 

 特に人気のある給食のメニューが出た時は、如何に早く食べ、争奪戦の勝者になるか、食いしん坊の男子は目をギラギラさせていた。

 当然俺も、争奪戦に加わる。

 さりげなく、配り終えた給食のパレットの中に、お代わりがあるかはチェック済みだ。

 

 日直の、「いただきます」の合図に合わせ、「いただきます!」と復唱し、お目当てのおかずを口にかき込む。

 

 一人、二人、お代わり目掛け席を立つのが見える。
 俺も口をもぐもぐさせながら、おかわりをGETすべく、椅子から立ち上がった時だった。

 

「あれ~? 岡野〜、お前給食費払ってないだろ~。タダ食いしてるのに、お代わりは駄目だぞ~」

 

 揶揄(からか)うように言ったのは、担任だった。

 タダ食いと言われ、恥ずかしさに、かぁっと顔が熱くなる。

 お代わりに向かいかけた足が止まった。

 

「わー、岡野タダ食いー!」

「タダ食い岡野だ!」

 

 先生の声に、他の生徒たちも騒ぎ出す。

 

「たっだぐーいおっかの! たっだぐーいおっかの!」

 

 調子ぶっこいた担任が、先導するように(はや)し立ててくる。

 ご丁寧に、手拍子まで添えて。

 合唱のように声を合わせ、皆がゲラゲラ笑って(はや)し立てる中、俺は真っ赤になって、そのまま椅子に座りなおした。

 

 ――そう。

 

 給食費が、払えなくなったのだ。

 判っている。払わないヤツが悪い。

 それは正論だ。間違いじゃない。

 

 でも、()()()()んじゃない。『()()()()』んだ。

 光熱費さえままならない中じゃ、日々の生活をするだけでやっとだった。

 

 ――親が両方いない生活、お前らしたことがあるのか。

 ――電気やガスや水道が止まるのに慣れるような生活、したことあんのか。

 ――中卒の女の子のバイト代で、家支えるのがどれだけ大変か、お前ら知ってんのかよ。

 

 何も、何も知らないくせに。

 

 悔しくて、恥ずかしくて、皆の前でわざわざそんなことをいう担任に腹が立った。

 もう、お代わりなんてするもんか。

 

 給食の度に揶揄(からか)われることも、無力な俺はただ、耐える事しか出来なかった。

 

 

 

to be continued…


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