第三話.岡野、愕然とする

 中学を卒業した上の姉は、俺たち姉弟を育てる為、高校には行かず、中卒でバイトをはじめ、実質上の姉が母親代わりであり、父親代わりという、姉弟三人の共同生活が始まった。

 

 そして始まる争奪戦。

 

「あぁぁ!! ねぇちゃん、俺今見てたのに!!」

 

「この時間はこれを見るの」

 

 シレっとチャンネルを奪い取る姉。

 数少ない我が家の娯楽は、もっぱらテレビだった。

 今のようにスマホなんてない時代。

 テレビも一台だけで、一番チビの俺に主導権は無い。

 

 ギリギリと奥歯を噛みしめていたある日。

 

「テル。今日は一日ゲームやって良いよ」

 

 にこにこと、とてもいい笑顔で姉が宣った。

 姉が天使に見えた。

 

「え!? マジで!? 良いの!?」

 

 俺は飛び上がって喜んだ。

 ゲームは、これまた数少ない我が家の娯楽だ。

 ワックワクで学校から帰り、いそいそとゲーム機をテレビに繋ぐ。

 そしてテレビの電源をON。

 

 ……シーン。

 

 ――ん?

 

 ポチ。

 ポチポチポチポチ。

 

 ゲーム機をチェックしても、テレビのコンセントを確認しても、ゴツい箱のようなブラウン管テレビの斜め四十五度を叩いてみても、うんともすんとも言わない。

 

「ねえちゃん、テレビつかないんだけど」

 

「うん、電気止められてるからね!」

 

 なんですと!?

 

 あんぐりしている俺をしり目にケラケラと笑う姉二人。騙された。

 姉が悪魔に見えた。

 

 どうやら姉二人は慣れているらしい。

 電気を止められるのに慣れている、と言うことは、当然ガスも止まれば水道も止まる。

 

 ある時は、

 

「ねえちゃーーん、水出ないんだけど」

 

「あー、水道止まったかー」

 

「!?」

 

 またある時は、

 

「ねえちゃん、コンロ火付かないんだけど」

 

「ガス止まってるからね」

 

「!?」

 

 そんなことが何度かあると、そのうち、俺も慣れてしまった。

 

 電気がつかなくても、蛇口捻って水が出なくても、コンロに火が付かなくても、ああ、またか、と。

 

 今なら分かる。

 

 母から仕送りがあるとはいえ、俺と下の姉の学費、光熱費、生活費にアパート代。

 そして、姉は、まだ中学を卒業したばかりの子供だった。


 家事をこなし、俺たち姉弟を養う為にバイトに明け暮れてくれていたけれど、それでも中学校を卒業したばかりの少女が稼げるバイト代などたかが知れている。

 すべてを賄うのは、容易な事じゃなかったんだ。

 

 ――そして。

 光熱費もまともに払えない、ということは。

 当然のように、学校の諸々も払えなくなるという事だと、俺が気づくまでそう時間は掛からなかった。

 

 

 

to be continued…


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