最近、DXという言葉がよく使われるようになってきました。DXとはデジタル・トランスフォーメーション(Digital Transformation )の略語であり、2018年に経済産業省がDX推進を発表した際にはDXを「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して顧客や社会のニーズを基に製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務や組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること(一部省略)」と定義づけました。
単に業務効率化を目指すIT化などと比較し、より戦略的な経営の変革を目的とする概念として使われています。頭文字のDTではなく、X(クロス)という米国で一般的に使われるトランスの略称を使用しているため、意味が少しわかりづらいと感じる人も多いと思います。


そのDXの推進において遅れているのが物流分野と言われています。一方で最も変革の効果が高いと見込まれ、早急な社会的推進が期待されているのも物流分野なのです。それだけ期待されているのになぜ物流分野、特に運送業においてDX推進が進まないのでしょうか。その要因を考察すると大きく3つの要因を挙げることができます。


①資金力や人的資産の問題

一つは資金力や人的資産の問題です。デジタル投資にかかる多額の費用を捻出する体力が乏しく、デジタルの活用に長けた社員が少ないことなどが挙げられます。運送業は中小企業が99%を占めており、収益体質のぜい弱な会社が多く存在するため、デジタル投資に回す余裕資金があまりありません。
例えばDXの最初の一歩となるデジタルタコグラフの導入についても、全車両に一括導入できる会社は限られており、数年かけて徐々に増設している会社が大半です。
また中小運送業は人材が不足しており、間接部門に人員を割けない為、経営者自ら全てを行わざるを得ない状況があります。経営者は年長者が多いため、概ねデジタル分野が不得意です。DXに関心があってもその運用を任せられる人材がいない為、躊躇してしまうのです。


②運送業独特の商慣習に基づく要因

次に運送業独特の商慣習に基づく要因が挙げられます。運送業は一次下請、二次下請が多く、取引形態が多重構造になっています。さらに傭車取引と言われる同業者間での融通や助け合いの慣習があるため、取引が複雑になりやすい側面があります。
また、飛び入りの仕事や突然の運行予定変更なども多く、一貫した標準システムを導入することが難しい現状があります。従来から電話やファックスを使い、契約内容が曖昧なまま信頼関係で受託する例も未だに多く見られます。
さらに取引関係上システムを導入した場合であっても、荷主ごとにシステムが異なるため、一貫した管理ができないケースがあります。効果が高いと見込まれるパレットの統合についてもこれからという状況です。DX推進に必要な「業務の標準化」に向けて、現状の問題点を改善し整理することが求められます。



③労働時間等の実態が明るみに出したくない経営者

3つ目の要因として、デジタル化により労働時間等の実態が明るみに出ることを嫌う経営者も存在します。今まで適当な管理でやり過ごしてきた会社では、実態の修正が一切出来なくなると困るのです。行政監査で指摘され、仕事ができなくなるぐらいなら今のままがよいと考えてしまうのです。
このような会社は現状を維持することだけに専念し、将来の経営ビジョンや社員の労働条件改善等にはあまり関心がない経営者と言えるでしょう。


最後に
以上、運送業においてDX推進が遅れる要因についてみてきました。その他に荷主側に起因する要因も存在するのですが、それらの課題を解決し、DX推進により経営を変革し、生産性を高めていくことが運送業のこれからの発展に不可欠な要素となっています。