第261回:社員全員の署名付きで5万円の賃上げ要望書が来た
【質問】このたびドライバー1人の呼びかけにより社員全員の署名を付した「賃上げ要望書」が会社に提出されました。弊社に労働組合はありません。5万円の即時賃上げを要請されており、赤字経営の弊社ではとても対応できない内容です。どのように対応すればよいでしょうか。
昨今の政府・経済界における賃上げ気運の高まりで上場各社の賃上げがニュースなどで身近に報じられるようになりました。
さらに最近の物価高が重なり、運送業の従業員にも賃上げに対する期待感が高まっています。
また運送業界では2024年問題を半年後に控え、来年以降、賃金がどうなるのか不安を訴える社員の声が急速に増加しています。
この状況下で、一部の社員が全員に呼びかけて全社員の署名を付した賃上げ要望書を会社に提出したものですが、このような事態に直面した場合は、まず次の事項を確認し、冷静に判断することが求められます。
①自社の賃金水準は同業他社と比べて高いのか低いのか(賃金相場との比較)、また過去の自社賃金の改定推移を確認②自社の財務状況からみて現在賃上げ余力があるのか(賃上げが可能な限度額を把握)③自社の賃金体系にコンプライアンス上問題になる点はないか(是正すべき問題点の確認)④呼びかけ人の1人が主張する内容と書面に署名しただけのその他社員との間に意識の差がないか(本当に全員が5万円の賃上げを要望しているのか)⑤呼びかけ人と協議することは可能か。
会社としては今後の人材募集と定着の観点から、要望書の提出いかんにかかわらず賃金水準の是正は必要と考えるべきです。
ただし、赤字経営の状況下で過度な賃上げは行うべきではありません。荷主との運賃交渉推移なども考慮したうえで、どの程度の賃上げが可能かを見極めることが重要です。
また、今回のように1人の社員がリーダー格となり、全員に署名をさせる動きは多くの場合、賃上げ以外のさらなる要望に発展することが多いものです。
特に賃金の未払いに関する質問や要求に発展することが度々あります。社員の要望に応じて可能な範囲で賃上げを検討する際は、賃金体系の問題点是正を併せて実施し、以後の労使トラブルを防止するとよいでしょう。
賃金改定と同時に賃上げを行う場合は、日頃社員から要望されていた手当や金額の見直しを検討し、なるべく社員の声に応える形での是正が望ましいと言えます。
要望書の提出は日頃の潜在的な不満が表面化したものと捉え、経営者はこの機に2024年に向けた賃金の方向性と会社の方針を社員に向けて丁寧に説明することが求められます。
(コヤマ経営代表 小山雅敬/中小企業診断士・日本物流学会会員)
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