昨年も新型コロナウイルスに翻弄された1年だった。国内の接種率が7割を超え、65歳以上の高齢者に限っては9割以上が2回の接種を終えたとされるワクチン(首相官邸発表、2021年12月14日時点)。3回目の接種も始まるが、運送業界では当初、「ワクチン未接種のドライバーは荷主から出禁にされるのではないか」といった懸念が出ていたが、実態はどうだったのか。

多くのドライバーが口をそろえるのは、「ワクチン未接種で不利になった話は聞いていない」ということ。大手宅配会社のドライバーも、「会社が強制することはないが、ほとんどの同僚が接種している」と話す。トラックドライバー情報サイト「ブルル」がドライバー177人を対象に行った調査でも、「積極的に接種した」が50.3%を占め、「未接種のために不利益を被った」と回答したドライバーはわずか2.3%にとどまった。また、「接種していないが、特に不利益なことはない」が22%だった。

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同調査では、「接種に積極的ではなかったが、やむを得ず接種した」と回答したドライバーが25.4%おり、何らかの圧力を受け、または感じ、接種したドライバーの存在が浮き彫りになった。食料品を扱うドライバーは、「高圧的ではないものの、元請け側が接種を推奨しており、部長から『打ってもらわないと』と言われ、渋々、接種した。取引がなくなったら困るから」と明かす。

 

ただ、同ドライバーは、「元請けだけでなく、世間的にも同様の風潮があった」とも。「夏頃に2度の接種を完了したが、その頃は各地で感染が爆発していた。幸い副反応もそれほどなく、接種のきっかけとなって良かったと今では思っている」。

「ワクチンハラスメント」という言葉も話題になる中、関東の運送事業者は、「『ワクチンを打ったかどうか』という話題は、企業間のやりとりではかなりセンシティブになっている」と語る。また、あるドライバーは、「うちの会社は打った人が大半だが、打っていなくても対応に変わりはない」としながらも、「副反応が出たドライバーをフォローするため、接種したかどうか、いつ接種するのかなどは聞かれた」という。「『ハラスメント』は、いずれも受けとる側の気持ちがすべてだから難しい。同じ言葉でも何とも思わない人もいれば嫌な人もいる」と理解を寄せる。

一方、「接種を希望しないドライバーには配車しない」と語っていた茨城県の運送事業者は、「イベント関連の荷主からは『接種が必須』と言われていた。配車差別と言われるかもしれないが、その荷主の仕事と他のドライバーを守るためにも仕方がない」と胸のうちを明かす。実際には、「『打ちたくない』と言ってきたドライバーはいなかったが、接種が遅れたドライバーは、接種必須の荷主から外すしかなかった。売り上げの良い仕事だったが、さっさと打ってきたドライバーにまわした」という。

接種は個人の判断 「推奨」も避け「案内」に

大手運送会社に17年勤務し、運行管理者の実務経験も持つ特定社労士の馬場寿春氏(馬場社会保険労務士事務所、東京都江東区)は、「3回目の接種が始まることで、打たない方への同調圧力が増す可能性がある。厚労省は『本人の同意なくワクチン接種を強制できない』としており、接種するかどうかは個人の判断。ドライバーに接種を促している経営者もいるようだが、業界的にそれがまかり通っていたとしても注意が必要」と警鐘を鳴らす。

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また、弁護士の長瀬佑志氏(長瀬総合法律事務所、茨城県牛久市)は、「ワクチン接種が進むにつれ、『ドライバーに接種を促したいが、打てと言って良いか』という相談をいただくようになった。接種を強要され、不利な扱いになったとなれば、法に触れる可能性がある。『推奨』であっても、表現によっては違法の可能性があるため、『接種機会の案内』にとどめるのが無難」と語る。

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両氏とも、「長引くコロナ禍で、従業員はもちろん、顧客に対しても安心・安全を届けたいという気持ちから、『できれば接種させたい』というのが経営者の本音だろう」と心情に理解を寄せつつも、「接種するかしないかは、あくまでも個人の自由であり、尊重を」と呼びかける。

3回目の接種が開始されるいま、改めて会社としての対応を確認しておく必要があると言える。