「そろそろグレーチングが盗まれそうな状況になってきた・・・そう社内で話したばかりだ」と鉄関係をメインに扱う西日本地区のトラック経営者。鉄スクラップの高騰を背景に盗難事件が増加の傾向にあるようだ。駐車場の出入り口に敷いたグレーチングや分厚い鉄板、1年を通してトラックの車体後部に吊るされたままのタイヤチェーンも鉄製品。適切な冬タイヤの装着に加え、チェーンを携行せずに雪道で立ち往生すれば行政処分となるルールも今年に入って新設されただけに資材管理を再チェックしたい。

 

冒頭の社長が「買い取りの基準になる」と話す製鉄会社の購入価格表を見ると、品目や地域で若干のばらつきはあるものの、大方がトン当たり5万円前後(10月初旬)。盗難被害の経験がある同社では、それを機にカメラやセンサーライトを設置したほか、「車庫の出入り口に1本のロープを掛けるだけで(犯人の心理が)違ってくる」という警察官のアドバイスも採用。「その後は盗みに入られた形跡はない」と話す。

 

 

鉄に詳しいだけに、同社でも現在の高騰ぶりを見て「いらない部品や資材を買い取りに出した」という。車体にぶら下げてあるタイヤチェーンは「ゴムバンドで止めているものの、ガタつくのを抑えるためで盗難対策ではない」と話すが、高速道路のパーキングで仮眠中に盗まれたドライバーがいると知り、管理方法を再検討したい考えだ。

 

鉄スクラップ専門業者と商社で組織する日本鉄リサイクル工業会(東京都中央区)によると、関東・中部・関西3地区の平均価格(今年9月)はトン4万8800円~同4万9800円で、前月より1000円高。昨年10月の時点と比べると2万2300円も高い。

同工業会の乗田佐喜夫専務理事は「関東地域の現在の価格は同5万円(H2=標準品種)ほどだが、コロナが広がりだした1年半ほど前は同2万円弱と大きく値を落とした。中国をはじめ世界的に経済が回復するなかで昨年10月ごろから価格が上昇し、その傾向が今年も続いている。(いまの高騰ぶりは)需要だけがコロナ前に戻るという、一言でいえば需給のタイト化にある」と話す。

 

一方、「国内は自動車産業が不調でスクラップ自体が減っているが、電炉メーカーに加えて、早く溶けてCO2の削減につながるスクラップを高炉メーカーも使うようになっており、それらの条件が重なっていると思う」と話すのは、製鉄所に出入りしている同地区の運送会社幹部。「通常は2万~3万円で、4万円を超えると異常なレベル。これまでの経験から、どこで盗難事件が起きてもおかしくない」と指摘する。

「7万円近くまで高騰したことがあった」という当時、同社はトラックのバンパーなどを盗まれた。また、高速道路のサービスエリアでドライバーが仮眠していたところ、車体の鳥居部分に引っ掛けてあったガッチャと呼ばれる荷締め機がなくなっていたこともあったようで、「車体後部にぶら下げているチェーンを盗まれてもドライバーが気付くのは難しい」と話す。

 

人通りの少ない場所に事業所を構える例が多いトラック事業にとって、防犯対策は切実なテーマ。かつてトラックを丸ごと盗られた同地区の運送会社では、それまで車庫に横一列に並べていたトラックの配置を変更。「すべての車両にドラレコが付いており、うまく散らして駐車させることでカメラに死角を作らない」と工夫した様子を説明する。

 

繰り返す盗難の被害 打つ手そう多くなく

 

中国自動車道を挟む南北のエリアでここ数年、運送会社の敷地に止めてあったトラックからバッテリーやマフラーが盗まれる事件が続発している。周辺では2010年の後半から平ボディーやユニック車、鋼材輸送のトレーラが集中的に盗まれる事件も起きているだけに、車両管理も合わせて再確認する必要がある。

真っ先に思いつく対策といえば防犯カメラだが、車庫に止めていた4トンユニック車を10年前、「わずか1分ちょっとで持ち出されてしまった」(社長)という会社もある。当時、4台の防犯カメラが収めた実際の映像を見せてもらったが、駐車場に入る乗用車らしきライトと、それから1分余りで車庫を出て行く2台のヘッドライトの灯りが記録されていただけで、犯人の特定につながるようなものは映っていなかった。

一方、「大型トラックの助手席側の足元にある安全確認窓を割られ、ナビなど車内の備品を持っていかれた」といった被害も各地で後を絶たない。白昼堂々とやってきたセルフローダーを「ドライバーが修理でも頼んだのだろう」と事務員が勘違いし、愛車の国産スポーツカーをまんまと盗まれた例もある。昼夜を問わず車両が出入りするため民家の少ない場所に拠点を構えるだけに、防犯対策に頭を痛め続けてきたのが実情だ。