「大型免許がなくても入社後に取得できます」と他業種からの入職や、ドライバー経験者のキャリアアップが可能なことを求人で押し出すトラック事業者は多い。一方、取得費用を会社が負担するものの、一定期間内に退職すれば本人に請求するという手法の問題点を知り、最近は「取得をサポート」とソフトな表現に変える運送会社も目立つ。

ところで、そうした場面でトラック協会などの助成金を活用するケースも少なくないが、過日、ある事業者が「免許を取って半年もたたないうちにドライバーが辞めてしまったが、あの補助金は返さないといけないのだろうか」と尋ねてきた。

西日本にある同社は近年、「運転免許がなくても取得が可能、丁寧に指導します」と求職者にアピールしてきた。「取得から3年は勤めてもらう条件で、それまでに辞めれば費用を請求する格好だったが、法的に問題があると専門家から指摘されて『費用は会社が立て替え、3年勤続で債務は消える』というルールに変えたばかりだった」と社長。

「持ち逃げと同じ。費用を負担して免許を取らせ、その後の初任教育まで済ませて退職されてしまったら、その運送会社はボランティアみたいなもの」(同)。ただ、ト協などの免許取得助成を活用することで「すべてが会社の持ち出しにはならないが、すぐにドライバーが辞めた場合はどうなるのか。返金しないといけないのか不明だが、やぶヘビになるのも嫌だ」と明かす。

かつて厚労省関係の補助金で「書類上の不備だと主張したものの認められずに、不正受給と指摘された運送会社を知っている」という。そうした事情もあり、あらかじめ情報を得て正しく対応しておきたい思いもあるようだ。

協会保有の自動車運転練習場を使って免許を取得した場合、利用料の一部を補助する岡山ト協。西田末廣専務は「要は性善説。そのドライバーが辞めてしまっても、トラック業界に残ってくれればいい…そう考えることもできる」。そのときの申請数で異なるものの、同助成金は受け付けてから概ね1か月以内に支払っているという。「税金で賄う国の補助金とは違い、業界団体の場合はそこまで厳格ではないと思う」(同)と話す。

「準中型・中型・大型・けん引」の助成を手掛ける福岡ト協は要項に「書類の内容に虚偽の事実が判明した場合、すでに交付した助成金の全額もしくは一部の返還を命じることができる」と記し、「申請時に誓約書を出してもらう」と事務局の担当者。ただ、「原本の郵送とかではなく、申請をファクスでも受け付けており、添付書類の改ざんなどを予防する意味合い」(同)とのことで、ドライバーの退職で返還を求めるものではないという。

一方、広島ト協も準中型からけん引までの取得を支援するが、「平成25年の創設当初から定めている」(森井茂人専務)というのが「助成対象となる免許取得者は、取得後1年以内に当該会員事業者を退職しないことに同意した者に限る」という記述。実際に年間で5~6件の返還実績があるようで、「制度的に返還を求めることにしているが、すべてを把握できるわけではない。あくまで会員からの申告による」(同)と説明する。

若年者の入職につなげるために対象を準中型に絞っている全ト協も実施要綱で、助成金の返還を求める場合があることに触れたうえで「返還を命じられた事業者については原則として当分の間、全ト協が行うすべての助成事業にかかる申請受付または、交付決定を行わない」と明記。しかし、これについても「基本は性善説。釘を刺している形だが、状況にもよる。いわばケースバイケースであり、発生してから具体的に検討することになるだろう」(経営改善事業部)としている。