ドライバーの突然の退職に社長激怒 代行「使うにもマナー」
「車や人間関係をめちゃくちゃにした揚げ句、退職代行を使って辞めたドライバーがいた。業者を使うにしてもマナーってもんがあるだろう」と憤るのは、広島市に拠点を置くA社の社長(40代)。最近、よく見聞きする退職代行。求人サービスの「エン転職」が昨年実施したアンケートでは、20代の認知度は7割に上り、実際に使ったことがあると答えたのは2%だったという。運送会社の経営者からも「突然、業者から電話があった」という話がちらほら聞こえる。A社社長と同じ反応も少なくないようだ。
A社に2年間勤務したドライバーBは20代後半の男性で、近隣の運送会社から転職してきた。A社の面接では「関東便に乗っていた」と話し、中・長距離の即戦力だと考え採用したという。
入社後、大型免許の取得費用を会社が一時負担した。ここまでは良かったが次第に「家賃や光熱費、携帯代が払えないと言い、果ては怪しい所に借金があることも分かった。私生活が乱れては事故を起こしかねない。親心もあり真面目に生きてと激励し、毎月の給料から清算することを条件に諸々のカネを肩代わりした」と社長。
しばらくは仕事に励んでいたように見えたが、コトが起きたのは昨年12月。隣市で大型車を数多く保有する会社の面接に行き「A社は11月で辞めた」と嘘をついたことが発覚。退職の話はおろか貸したカネの返済も残っていた。
社長は「辞めるなら一括で返済してほしい」と話すも、Bは「もう一度チャンスが欲しい」と懇願し、退職には至らなかった。しかし、この間も規則である乗務後の車両点検で虚偽の報告をし、ワイヤーが見えるほど擦り減ったタイヤを発見。Bが関わった仕事が切れるなど次々と問題を起こした。
■突然の退職宣言
嘘ばかりで不信感が高まっていた今年8月下旬の日曜日、社長の携帯に退職代行業者から電話が入る。「Bが今日付けで退職を希望している」――乗務2時間前の出来事だった。
Bは社内でパワハラに遭っていると主張したそうだが、これまでの行為に対する社長の聞き取りを「パワハラと思ったようだ」。結局、理由は納得できないものの金銭問題は解決しており、退職の申し出を受け入れた。社長は、「従業員は家族同然に大切にしてきたが、それをアダで返された。情に厚いのが運送業界で働く良さと思ってやってきた。考えを改めるべきなのか」と憔悴した様子で話す。
■酷い行状の数々
Bの突然の退職で、代わりの乗務の準備に取りかかる社長が運転台を開けると「未知の光景が広がっていた」。異臭が立ち込め、食べかけのパン、爪、髪の毛が散乱。極め付きはベッドマットの下から大量の尿入りのペットボトルが…。
とても走れる状況ではなく、産廃処理業者に清掃とゴミの撤去を依頼。「代行業者を通じて、この費用は最後の給料から引くことを通達。期限を指定して直接受け取りに来るように要請したが音沙汰なしだ」とうんざりした表情を浮かべる。
広島市の中堅運送事業者はドライバーを経て管理職になり20年になるが、「うちは退職代行を使って辞めた例はまだないが、正直いつ、どこで起きてもおかしくない」とA社社長に同情する。
トラックドライバー求人サイト「ブルル」の協力を得て、ドライバーに「退職代行を利用したことがあるか」とのアンケートを実施。「ある」と回答した人は約5%だが、半数が「直接言えない状況だった」「面倒だった」を理由に挙げるなど、コミュニケーション不足やドライバー自身の社会性が垣間見えるような結果に。
一方、本紙が経営者を対象に「これまでに退職代行を利用して辞めたドライバーはいるか」を調査したところ、「ある」が10%。このうち神戸市の社長は「2、3年前に突然弁護士から電話があり、ポカンとした。今になって代行だったんだと腑に落ちた」。
「ない」との回答のなかには「けんか腰で問題がある者なら第三者が入るのはあり」「配車係がドライバーを管理する場合は、有給取得を申し出にくいなど人間関係に影響が出ることがある。こうなると退職代行を使おうとなるのも分かる」との見解も。「自分の言葉で説明できないなんて社会人として問題。日本の将来が心配になる」との意見もあった。
退職代行からの突然の電話には、どう対応するべきか。同地域の労働局雇用環境・均等室は「民法の規定上、退職の申し出は、原則、拒否できない。引き留める際も強要にならないように注意が必要。また、労働者側も急な退職で会社に大きな損害を与えれば、損害賠償請求のリスクがあることを知っておくべきだ」としている。
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