ヤマト運輸(長尾裕社長、東京都中央区)では6月10日から個人向け会員サービス「クロネコメンバーズ」の会員を対象に新たな配送方法として「置き配」を選択可能とした。また、国交省は2019年から再配達削減に向けて「置き配検討会」を開催し、玄関前に荷物を置く「置き配」を選んだ人にポイントを付与する実証事業を実施するなど消費者に「置き配」を推奨している。消費者の理解が進む中、置き配を歓迎しない運送会社もある。

 

国交省によると、近年国内ではEC市場の拡大に伴い、宅配便の取扱個数が増加。宅配便の小口化・多頻度化も進み、積載率の低下や再配達の発生などの非効率も発生。2019年の宅配便再配達率は15%(「宅配便再配達実態調査」より)となっており、再配達を削減し配達効率化を進める上で、「置き配」を推奨。宅配ボックスを設置した住宅などに補助金を出すなど、置き配に力を入れている。

再配達によるドライバーの長時間労働を減少させることが期待できる中、宅配業務にかかわる運送会社の中には歓迎しないむきもある。

 

「うちでは『置き配』を推奨していない。ユーザーがどうしても置き配を希望するのであれば行うが、誤配などのリスクが大きい」と話すのは愛知県で軽貨物輸送を営む会社社長。「2024年問題の影響もあり、軽貨物の輸送需要はかなり高まっている。1人のドライバーが日に200~300個を運んでおり、そんな中、誤配はどうしても発生する」と話す。

 

「対面配送ですら誤配があるのに、置き配にしたらもっと増えるのでは。ドライバーと受取人によるダブルチェックを行えない。誤配した際にすぐ気づくことが難しく、対応に時間がかかる。また、宅配ボックスがない場合、顧客の個人情報が流出する可能性や荷物が盗まれるリスクもある」と語る。

 

別の運送会社では誤配リスクの面から置き配を原則禁止にしているという。「当社では『置き配』する場合、証拠として写真を撮影するが、万一ドライバーが忘れてしまった場合を考えると…。実際に写真を撮り忘れてトラブルになったケースもある。置き配することでドライバーの拘束時間は緩和されるが、それ以外の方法で改善してほしい」とコメント。

 

「例えば時間指定の配達をする場合、有料にする。そうすることで『時間指定』をする人が減り、時間に縛られない配送ができる。また、時間を指定しているにも関わらず荷物を受け取らなかった場合、さらなる追加料金が発生するシステムを構築するべき。再配達が無料だから消費者も適当になっているのだと思う。これを有料化した場合、必ず受取人はその時間にいるように努力するのでは」と話す。

 

同事業者は、時間指定の幅が細分化されすぎていることを指摘。「『朝』『昼』『夕方』程度に分かれている方がいい。同じ時間帯を希望する人が集中してしまい、そこだけ人手が足りないということは普通にある」。

マーケティング・リサーチ会社のクロス・マーケティングが実施した「宅配に関する調査(2022年)」によると「日時指定の利用有無」では、「いつも日時指定する」人が全体の42%を占めていた。「再配達を少なくする方法(自由回答)」では、「指定時刻の刻みを細かく」「ネット店舗によって時間指定や日付指定がまったくできないところがある。時間指定や日付指定は再配達防止になると思う」「時間指定が2時間間隔と長いので、到着の10分前とかに携帯に通知がほしい」など時間指定を期待する声が寄せられた。

 

ある物流関係者は、「消費者を慮り、寄り添う姿勢は日本が誇るおもてなし文化で、『お客様は神様』という言葉もある。しかし、行き過ぎたサービスは、運送に従事するドライバーの負担となり、さらなる人手不足を加速させ、配達する人がいなくなる。最終的には消費者がサービスを受けられなくなる悪循環だ。健全な労働環境を作るためにも、私たちはそろそろ従来の過剰サービスに終止符を打つべきだろう」と指摘する。