運送業界に人を呼び込むために必要とされるのは待遇面だけでなく良好なイメージづくり。発信と周知活動が持つ有効性の観点からSNSや動画サイト等での活動を前向きに取り組む事業者も増加傾向にあるが、周囲の「見る目が変わる」取り組みである「指差呼称」を広めて格好良いドライバーを街中に増やすのも手だ。

 

「指差呼称」は確認ポイントに都度、集中して状態を認識し、「良し」の掛け声とともに文字通り指で対象を差して安全行動や事故防止につなげる行為。「良いのは分かっている」としながらもなかなか社内で浸透させることに苦慮する事業者は多いだろう。

 

三重県三重郡川越町に本社を構える暁興産(伊藤康彦社長)は20年あまりをかけてこの行動に取り組んで今や社内の文化として定着させており、日々の業務がそれありきで進められている点などをあげても業界において稀有な存在と言える。

 

一説によるとその実行を通してはヒューマンエラーを6分の1にまで減少させ、鉄道の世界で始められたことがルーツとされる指差呼称はやはり今でも駅やホームで目にする機会が多く、ほかにも空路や航路に携わる現場で採り入れられている。その行為は確実な目視と一連の動作で行われ、操縦者が「運転士」と呼ばれる世界においては特に定着しているように思える。

 

暁興産では質の向上を促進する意味も込めて年に2回、指差呼称に特化した「安全の絆キャンペーン」を実施して正しい動作の再確認やチェックリストに沿った採点等を長きに渡って継続。今では現場はもちろん新入社員の紹介写真に点呼時、加えて全体会合における締めの場面においても全員による指差呼称が採り入れられている。

 

そんな動きは事故防止や安全意識の高まりといった基本的な効果と併せ、その姿を通した好印象となって周囲に広がっていく。業界内でまだまだ一般的ではない現状においては見る者に新鮮でポジティブな場面として記憶され、それらはやがて仕事や採用などの面においてメリットをもたらす好材料となる。

 

同社での関連活動を先頭で行い動作の模範も務める加藤亘氏は動きについて、「はじめた当初は照れもあったようだがキャンペーンなどを通して『人に見られる』ということにも慣れてきており、皆、堂々とした態度で指差呼称に臨んでいる」と語って従業員らに「迷いがない」という点を強調。またキャンペーン時に使用するワッペン制作や優秀者へプレゼントされる「肉の塊」といったアイデアの発案者である伊藤公一専務は「キャンペーンについては正直『マンネリ』という感も否めないが、逆にマンネリ化するほど続けていることに意義があると感じている。今後も『大いなるマンネリ』を目指して取り組んでいきたい」とコメント。キレのある動作と力のこもった掛け声で指差呼称を華麗に決めるトラックドライバーの姿が随所で見られるようになれば、その呼び名は自然に「運転士さん」へと変化していくかもしれない。

 

一方、浜松市中央区に本社を構え安全に係る独自の取り組みを幅広く展開しているトレードトラストの宮澤稜社長は指差呼称について、「安全や事故防止の意識を高めていく過程で自然に発生することが理想」とコメント。同社において指差呼称は義務化といった全体的な指導は行っていないが、現場での動きを見ていると安全確認における流れの中でそうした動作を自発的に行っている従業員がいるとのことで、やはり事故防止を追求していくその先で自ずと辿り着くひとつの答えであると実感する。

 

◎関連リンク→ 株式会社暁興産