第二十一話,岡野、法の壁に阻まれる

 ちなみに。
 今でこそ、法人登録には法令試験が必要だが、当時はそんなものは無かった。
 申請して許可が出ればOK。
 なので、俺は即座に動き出す。

 まずは必要書類。ここからだ。

 幸い俺は顔が広い。
 早速知り合いの行政書士の卵に連絡を取った。
 鉄は熱いうちに打たないと。
 これは俺の信条でもある。

 短期にどれだけボルテージを上げて使うのか。ここが大事だ。
 例えば、気に入った店を見つけるとする。
 とにかく通う。毎日でも通う。
 と、はじめは村人A扱いが、「常連客」になり、「お客様」から「岡野さん」になる。
 こうなったら儲けもんだ。
 諸々融通を利かせてくれたりね。
 何かをするときも同じ。熱いうちにガンガン突き進む。
 熱が冷めてしまわないように。

「あのさ、法人登録するのに書類作成頼みたいんだよね」
「ああ、じゃ、知ってる行政書士紹介してやろっか?」
「いや、金無いんだよ。お前行政書士の卵だったろ? 練習がてらにさ。作ってよ」
「……は? 俺?!」
「持つべきものは友だよな! できるんだろ? 頼むよ!」
「お前……。ほんっとそういうとこだよ……」

 パンっと手を合わせ拝んでみせると、仕方がないなといった顔で引き受けてくれた。

 よし、次だ!
 書類を作って貰っている間にやれること。
 法人となると金が必要になる。
 と、ここは銀行からの融資が必要だな。
 よし、銀行行こう!

 早速金を預けてある銀行へと突撃する。

 名前を呼ばれ、意気揚々受付に向かうと、あれやこれやと必要書類の名前が挙がる。
 なんでも二期分の決算書が必要らしい。
 とはいえ、俺はお得意様よ?

「あー、とりあえず、二百万で良いんだよ。頼むよ」
「……はぁ。申し訳御座いませんがお客様。当銀行ではお請け出来ません」

 銀行員は眉を下げて、広げていた紙をスススっと下げた。
 申訳なさげに下げた眉に「お断り」の文字が透けて見える。
 事業で三百万円くらいは回しているんだから行けるだろうと思ったが、あっさり断られた。
 なんでだよ!?

「ダメってなんで! 三百万円も回してやってんだろ! 他の銀行に変えちゃうぞ!!」

 思わずムカついてウザ絡みしたら、シレっとした顔で「どうぞ」と返された。
 今思うと、そりゃそうだ、なんだけど、当時若造だった俺は素で意味が分からんかった。

 ――ちくしょー。
 今に見てろよ。いつか絶対に向こうからお願いしますと言わせてやる。

 もちろん、ダメと言われたからといって、仕方がないと諦める俺ではない。
 ならば、と、向かった先は消費者金融。
 俺には実績がある。
 ちょっとやべーな大丈夫かなって気はしないこともないが、俺は七百万円を返し切った男だ。
 やればできる!

 初めて消費者金融に手を出して借りた金額は二百万円。
 五十万円につき金利が六万円。
 ということは、返済をするには二十パーセントくらいは儲けが無いとヤバい。

 はー。またこれかー……。
 終わったと思ったら湧いて出るこの借金。
 マジで万札に羽生えてるとしか思えないくらいに、ばっさばっさと減っていく。
 いや、いいけどさ。やるけどさ。

 緑ナンバー取得、思ったよりも前途多難だった。

 

to be continued…


お待たせいたしました!
運送業界の風雲児!岡野照彦列伝、次回もお楽しみに!