「標準的な運賃」は運賃の引き上げに実効性があるのか?
皆さんは「標準的な運賃」という言葉を聞いたことがあるでしょうか? 運送業に勤務している人であれば、聞いたことがあるかもしれませんが、運送業以外では聞く機会が少ないでしょう。
運送会社の中でも経営幹部や営業担当者は使うことがありますが、ドライバーの皆さんにはあまりなじみが無いと思います。「標準的な運賃」とは国土交通省が定めた「望ましい運賃水準」のことです。
2018年に公布された働き方改革関連法により、2024年4月からドライバーに時間外労働の上限規制を適用することが決まりましたが、この規制はドライバー不足を加速して物流の停滞を招く恐れがありました。
そこで緊急対策としてドライバーの労働条件を改善する為、2018年12月に貨物自動車運送事業法が改正され、「標準的な運賃」告示制度の創設が決まったのです。その後の検討を経て「標準的な運賃」が最初に告示されたのは2020年4月24日でした。
「標準的な運賃」は旧認可運賃のような強制力はありません。あくまでも参考となる運賃水準であり、標準運賃ではなく、「的な」を付けて「標準的な運賃」としているのはそのためです。 運送業が健全な経営を確保できるように算出した運賃水準であり、運賃の実勢値よりかなり高めに設定されています。
距離別と時間別の運賃表を地域別・車種別に設定し、待機時間料を明示して冷蔵冷凍車には2割増の適用を決めるなど、運賃交渉の参考となる水準を定めています。
告示した当初は「標準的な運賃」が荷主との運賃交渉に活用されることを意図していましたが、丁度、コロナ感染拡大により社会経済が一気に停滞する時期と重なった為、「標準的な運賃」を運賃交渉に活用することができませんでした。
活用度合が低い状況はコロナが落ちついても変わりませんでした。つい最近まで「標準的な運賃」には運賃交渉に対する実効性が見られませんでしたが、2023年頃から徐々に変化が表れてきました。
政府が2024年問題に危機感を募らせ、2023年以降に対策を矢継ぎ早に打ち出し始めたからです。
各省庁一体となって荷主や元請事業者に対する監視や規制強化を始め、コスト上昇分の価格転嫁を強力に推進したことから、荷主等の意識が変化し始めたのです。特に公正取引委員会が二度にわたり、問題のある荷主と元請の社名を公表したことは荷主に大きな衝撃を与えました。
運賃交渉に真摯に向き合わないと、自社も社名公表のリスクがあると認識されるようになってきたのです。また、公正取引委員会が提示した指針には、標準的な運賃等の公表データに基づく運賃交渉に対しては合理性が有るものとして尊重しなければならない旨が記載されており、荷主は最低賃金や「標準的な運賃」等を使った運賃の引き上げ要望に対して真摯に向き合うことを求められるようになりました。
そのような変化が出始めた2024年3月22日には「標準的な運賃」の改定が行われ、平均8%程度の引上げと積み降ろし等の作業料明示等が打ち出されました。また国土交通省は3月26日に建設資材等の運搬に対し、「標準的な運賃」をもとに運賃を決定するように促す通達を発出し、国や都道府県等が発注する工事に伴う運搬等の運賃は標準的な運賃を基本とすることを関連業界に求めています。
このような動きが続々と出てきたことは「標準的な運賃」の実効性にプラスの影響を与えています。今後の推移を見守る必要がありますが、「標準的な運賃」を使うことで、以前より運賃引き上げ交渉がやりやすくなったことは間違いありません。今後運賃交渉によりドライバーの賃金水準の向上が図られることを期待したいと思います。
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